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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)657号 判決

主文

原判決を破棄し本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人斉藤忠雄の上告理由について。

自創法による農地の買収処分には、民法一七七条の適用はないと解すべきであるから、どこまでも真実の所有者についてこれを行うべく、単に登記簿の記載のみによるべきでないという趣旨は、当裁判所大法廷の判例とするところである(昭和二五年(オ)第四一六号同二八年二月一八日判決、集七巻二号一五七頁)。

従つて買収処分が、単に登記簿上の記載によつたため買収当時における真実の所有者を誤つて行われたような場合は、その処分は違法たるを免れないが、それだけで常に直ちに当然無効と解すべきでないとともに、他面真実の所有者が、自己の所有農地について誤つて買収処分が行われたことを知り若しくは知り得べき状態に在つたと認められるにかかわらず、その取消を求めるため法律上許された異議、訴願又は出訴等一切の不服申立の方法を採らず期間を徒過したような場合は、その後において訴によりその違法を主張することは許されないと解するを相当とし、従つて前記買収処分はその瑕疵にかかわらず無効となるものでないとするのは、また当裁判所の判例とするところである。(昭和二四年(オ)第一七七号同二五年九月一九日第三小法廷判決、集四巻九号四二八頁。昭和二五年(オ)第二八〇号同二九年一月二二日第二小法廷判決、集八巻一号一五三頁。昭和二六年(オ)第一六二号同二九年一月二二日同判決、集同上一七二頁。各参照)。

所論の民法一七七条の適用を主張する理由は、前記引用の判例に徴し採用できないが、なお所論について調べてみるに、原判決の確定するところによると本件農地について買収計画が立てられた当時における真の所有者は、登記簿上の記載にかかわりなく被上告人であるとし、従つて上告人の本件買収処分及び売渡処分は所有者を誤つた違法があるから無効であると判断したのである。しかし被上告人が当時本件農地の真実の所有者であつたとしても、前記後段に説示した判例の趣旨に徴すれば、被上告人が自分の所有に属する本件農地について買収計画が立てられ、またこれに基いて買収処分が行われた事実を知り若しくは知り得べき状態に在つたと認められるにかかわらず、その取消を求めるため、法律上許された異議、訴願又は出訴等一切の不服申立の方法を採らず期間を徒過したとすれば、その後において本件訴によりこれらの手続の違法を主張することは許されないと解すべく従つて本件買収処分及び売渡処分はその瑕疵にかかわらず無効となるとはいえないと解するを相当とする。しかるに原審はこれらの事実を確定することなく判決をしたのは審理を尽さなかつた違法があるに帰し論旨はこの点について理由があり原判決は破棄を免れない。

よつて民訴四〇七条により主文のとおり判決する。

この判決は、本件売買についても民法一七七条の適用あるものとする井上裁判官、島裁判官を除く全裁判官一致の意見である。

井上裁判官の意見は、昭和二五年(オ)第四一六号同二八年二月一八日大法廷判決において述べたとおりである(判例集第七巻二号一五七頁)。島裁判官の意見は井上裁判官と同じである。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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